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*コヴィー氏VS近江商人

win-winという言葉が、ビジネスマンの皆さんの日常会話の中で、普通に使われるようになって、もう随分と経ちます。売り手にも買い手にも、お互いにメリットがある、そんな意味として使われているようです。
  その大元になったのは、1996年、全世界で1500万部を突破したベストセラー、「7つの習慣」だと思います。著者は、スティーブン・R・コヴィー氏。アメリカの経営コンサルタントです。一種の成功哲学、人生哲学読本ですが、コヴィー氏が事業家である事から、ビジネス書としても読まれたようです。7つの習慣のうち、その第4の習慣として、win-winの考え方は登場します。その前提になっているのが、全ての人を満足させるのは可能である、という考え方です。
  ちなみにコヴィー氏は、敬虔な末日聖徒イエス・キリスト教会の信徒だそうです。一般的にはモルモン教として知られています。この宗派では、収入の10分の1を教会に献金する義務があるらしいので、コヴィー氏は、大きな献金をしたんだろうな、などと俗っぽいことを妄想したりしてしまいます。
  さて、このwin-winという考え方、非常にポジティブですし、また、lose-winやwin-loseなどと置き換えやすい用語なので、使い勝手が良く、とてもすばらしいコンセプトだと思います。思いますが、何か、西欧特有の匂いを感じてしまうのも事実です。西欧特有の2分法の価値観です。神と悪魔、善と悪、自己と他者、物質と反物質、テーゼとアンチテーゼ、世の中を2つの勢力に分断するクセみたいな匂いです。
 自分と自分以外との関係のステークホルダーにおいて、自分にも、自分以外にも、loseがあってはならない、という発想。やはり、自分と自分以外の世界との間に、ある種の対立項の存在を感じてしまいます。わたしども日本人にはもともと、自分は、自分以外の世界に含まれる、というか、自分が世界の部分集合のひとつみたいな感覚があるからでしょうか。自分と、自分以外の世界が、等価で対峙するのにしっくり来ません。
  ここで、とても賢い考え方があるので、紹介させて戴きたいと思います。日本で昔からある考え方です。近江商人の経営理念である、「三方よし」という考え方です。
  「三方よし」とは、売り手よし、買い手よし、世間よし。売り手と買い手の、当事者たちのwin-winの関係だけではなく、彼らの商取引を、社会も「よし」と認定し、社会にとっても、winな商行為であるべきだ、とする標語です。
 近江商人は、異郷を旅し、商いする人々でした。そしていずれ、異郷に出店し、商いの発展を目指す人々でした。したがって、何のゆかりもない、異郷の人々との間に、目に見えない「信用」という財産を築いて行かねばなりませんでした。一回コッキリの商売ではなく、異郷の地に得意先を開拓し、地盤を広げていかなければなりませんでした。なので常に、商取引の背後に、第三者の視線、周囲の人々や地域の人々の目を視野に入れていました。社会の一員として商いをする事、その自覚なしでは、商人としての立身も、外来商人としての存続もありえない事を知っていたのです。
 「三方よし」の原典は、宝暦4(1754)年に70歳となった麻布商、中村治兵衛宗岸(そうがん)が、15歳の養嗣子にしたためた書置(かきおき)、とされています。それは24ヶ条もある長文のもので、中村宗岸の商人としての肉声が、実感を伴って記されています。その概要を明治になって、井上政共という人がコンパクトにまとめ、さらにコンパクトに標語化したものが「三方よし」です。
 その精神は、300年も前のものですが、それが現代の企業に示唆する所は、非常に大きいと考えます。まさに顧客満足度(CS)を高め、企業の社会的責任(CSR)を果たす事に通じている、と思います。
 CSRが日本や西欧で喧伝されるようになったのは、最近のことのように感じられます。企業不祥事や地球環境問題が背景にあることは言うまでもありませんが、9.11の同時多発テロが世界貿易センタービルを標的にした事に見られるように、グローバルな企業活動に対する憎悪への対処という側面もあると思います。産業革命以後、企業の居ずまいには、何処かから怨嗟の声があがるという性格を秘めていて、それに口を噤んでいた事実があるように感じます。
 わたしは、コヴィー氏の「7つの習慣」に感服し、近江商人の「三方よし」に、より共共鳴する者です。
 弊社は残念ながら、近江出身の会社ではありません。ありませんが、「三方よし」の精神には見習って行きたいと思っています。皆様とも、この精神でお付き合いさせて頂けたら、と希望します。

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